Light Lens Lab 35mm f/2「周八枚」レビュー:伝説の8枚玉を現代に蘇らせた復刻レンズ

Light Lens Lab 35mm f/2「周八枚」レビュー:伝説の8枚玉を現代に蘇らせた復刻レンズ

8枚玉という伝説

「8枚玉」という言葉を聞いたことがあるだろうか。

1958年から1969年にかけて製造された、Leica Summicron 35mm f/2の第1世代。8群8枚という、当時としては複雑な光学設計。その描写は「神話」として語り継がれている。

開放では独特の滲みがあり、絞ると驚くほどシャープ。コントラストは現代レンズより控えめで、ハイライトには柔らかなグローが出る。

オリジナルの8枚玉Summicronは、中古市場で50万円以上で取引されている。状態の良い個体は100万円を超えることも珍しくない。

Light Lens Lab M 35mm f/2「周八枚」は、その伝説を現代に蘇らせた復刻レンズだ。価格は約16万円。オリジナルの10分の1以下で、8枚玉の描写を体験できる。

Light Lens Labという会社

Light Lens Labは、中国のレンズメーカーだ。

「中国製」と聞いて眉をひそめる人もいるかもしれない。だが、このメーカーの品質は本物だ。

創業者の周氏は、クラシックレンズの復刻に情熱を注いでいる。オリジナルの設計図を研究し、当時の製造技術を再現し、現代の工作精度で製品化する。

「周八枚」という名前は、8枚玉設計と創業者の姓をかけた命名だ。自信の表れだと思う。

私は最初、懐疑的だった。中国製の復刻レンズが、本当にオリジナルの描写を再現できるのか。だが、実際に使ってみて、その疑念は消えた。

開放F2の描写

初めて開放で撮ったとき、私は驚いた。

これは、C Sonnar 50mmとも、Nokton Classic 40mmとも違う。独自の「性格」がある。

開放では、像がわずかに滲む。だが、C Sonnarほど極端ではない。実用の範囲内だ。ハイライトの周りには柔らかなグローが出る。コントラストは控えめで、シャドウは深く沈まない。

この描写を「眠い」と感じる人もいるだろう。だが私は、これが8枚玉の「味」だと思っている。

デジタル補正で消すような収差ではない。1958年の光学設計者が意図した「表現」だ。

絞ったときの変貌

F4まで絞ると、世界が変わる。

滲みは消え、像はシャープになる。だが、現代レンズのような「カリカリ」ではない。芯はあるが、エッジは柔らかい。

これが8枚玉の真骨頂だと思う。

シャープなのに、優しい。解像しているのに、目に痛くない。このバランスは、現代の設計では出せない。

F5.6〜F8で最高の描写になる。風景撮影でも十分な解像力がある。だが、やはりどこか「クラシック」な雰囲気が残る。

35mmという画角

私は普段、Nokton Classic 40mm F1.4を使っている。では、なぜ35mmも買ったのか。

35mmと40mmは、たった5mmの違いだ。だが、この5mmが大きい。

35mmは、40mmより明らかに広い。同じ位置から撮っても、より多くの情報が入る。ストリートスナップでは、この「余裕」が重要なことがある。

40mmは「見たまま」を切り取る。35mmは「見たもの+α」を切り取る。

Noktonで撮ると、被写体に集中した写真になる。周八枚で撮ると、被写体と環境の関係性が見える写真になる。

どちらが優れているかではない。表現の選択肢が広がるのだ。

Summicron 35mm f/2で撮影した空の写真
35mmの広い画角は、風景と被写体の関係性を描くのに最適 Photo by HO JJ / CC0

Leica Mとの相性

周八枚は、Mマウント用に設計されている。Leica Mとの相性は言うまでもない。

だが、一点だけ注意がある。

このレンズは、35mmのブライトフレームに対応している。Leica M Typ 240のファインダーで、正確にフレーミングできる。これはNokton 40mmにはない利点だ。

また、レンジファインダーのピント合わせとも相性が良い。距離計連動は正確で、無限遠のズレもない。

Light Lens Labの品質管理は、正直驚くほど高い。

16万円という価格

正直に言おう。16万円は安くない。

Nokton Classic 40mm F1.4が4万円台で買えることを考えると、4倍近い価格差がある。

だが、オリジナルの8枚玉Summicronと比べれば、圧倒的に安い。オリジナルは50万円以上、状態の良いものは100万円を超える。

16万円で、伝説の8枚玉の描写を体験できる。これを「高い」と見るか「安い」と見るか。

私は、後者だと思っている。

伝説の8枚玉Summicronを現代に復刻。1958年の光学設計を16万円で体験できる。

¥169,200 (記事作成時の価格です)

rakuten.co.jp

オリジナルとの違い

復刻レンズは、オリジナルと同じなのか。

正直に言うと、「同じ」ではない。

Light Lens Labは、オリジナルの設計を忠実に再現している。だが、製造技術は現代のものだ。硝材も、コーティングも、当時とは異なる。

結果として、描写には微妙な違いがある。オリジナルの方が、より「古い」描写になる。周八枚は、クラシックでありながら、どこか現代的だ。

だが、この違いは「欠点」ではない。むしろ、周八枚の方が使いやすいと思う。

オリジナルの8枚玉は、状態が悪い個体も多い。バルサム切れ、クモリ、カビ。60年以上前のレンズだから、当然だ。

周八枚は新品だ。光学系は完璧な状態で手に入る。保証もある。実用として使うなら、周八枚の方が安心だ。

Nokton Classic 40mmとの使い分け

私は、周八枚とNokton Classic 40mmを使い分けている。

Nokton Classic 40mmは「日常」のレンズだ。見たままを切り取る。ゾーンフォーカスで素早く撮れる。ストリートスナップの相棒。

周八枚は「物語」のレンズだ。被写体と環境の関係を描く。開放のグローで雰囲気を出す。じっくり撮るときに選ぶ。

どちらも35mm〜40mmの標準域だが、性格は全く違う。

40mmの方が使用頻度は高い。だが、周八枚でしか撮れない写真がある。その「しか撮れない」ために、私はこのレンズを手放せない。

中国製レンズへの偏見

最後に、中国製レンズについて触れておきたい。

「中国製」と聞くと、品質に不安を感じる人がいる。確かに、安価な中国製レンズには品質のばらつきがあるものもある。

だが、Light Lens Labは違う。

彼らは「安さ」ではなく「復刻」を目指している。価格は16万円。決して安くない。その代わり、品質には妥協がない。

私の周八枚は、半年使っても何の問題もない。距離計連動は正確だし、絞りリングの感触も良好。ヘリコイドのトルクも、最初から最後まで一定だ。

コシナ(Voigtländer)が日本のレンズ文化を支えているように、Light Lens Labは中国からクラシックレンズの復刻に挑んでいる。

この挑戦を、私は応援したい。

どんな人におすすめか

おすすめできる人

  • 8枚玉Summicronの描写に興味がある人。オリジナルの10分の1の価格で体験できる。
  • 35mmの画角が好きな人。40mmや50mmとは違う「広さ」がある。
  • クラシックな描写を求める人。開放のグロー、絞ったときの柔らかなシャープネス。

おすすめしない人

  • シャープさを最優先する人。現代レンズの方がシャープ。
  • 初めてのMマウントレンズを探している人。Nokton 40mmの方がコスパが良い。
  • オリジナルの8枚玉を持っている人。描写は似ているが、同じではない。

伝説を体験する

8枚玉Summicronは、伝説のレンズだ。

その伝説を、16万円で体験できる。Light Lens Lab「周八枚」は、そういうレンズだ。

開放で撮れば、1958年の光学設計者が見ていた光を、私も見ることができる。絞れば、60年以上前の技術者の計算が、私のセンサーに結像する。

便利じゃない理由には、だいたい意味がある。8枚玉の開放は、確かにシャープではない。だが、その「シャープではない」描写に、60年の歴史が詰まっている。

私は、その歴史を噛み締めながら、今日もシャッターを切っている。

今回紹介したレンズ

伝説の8枚玉Summicronを現代に復刻。1958年の光学設計を16万円で体験できる。

¥169,200 (記事作成時の価格です)

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松本 幹也

不便さを愛し、収差を「絵筆」として使う哲学者。コシナレンズとLeicaを愛するSIerインフラエンジニア。

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