絞りの使い方:F1.4からF8まで、ボケ量の変化を比較してみた

絞りの使い方:F1.4からF8まで、ボケ量の変化を比較してみた

絞りは「描写の絵筆」

カメラの設定項目の中で、絞りほど描写を劇的に変えるものはない。

同じレンズでも、開放で撮るか、絞って撮るかで、まるで別のレンズのような写りになる。ボケ量だけでなく、シャープネス、コントラスト、周辺光量まで変わる。

私は、絞りを「描写の絵筆」だと思っている。

今回は、私が愛用するVoigtländer Nokton Classic 40mm F1.4とCarl Zeiss C Sonnar 50mm F1.5を使って、絞り値によるボケ量の変化を比較してみた。

絞りの基礎知識

F値とは何か

絞り値(F値)は、レンズの開口部の大きさを表す数値だ。

F1.4、F2、F2.8、F4、F5.6、F8、F11、F16…と続く。数字が小さいほど開口部が大きく、光を多く取り込める。

F値が小さい(開放)

  • 光を多く取り込める(明るい)
  • ピントが合う範囲が狭い(ボケが大きい)
  • 被写体が浮かび上がる

F値が大きい(絞る)

  • 光が少ない(暗い)
  • ピントが合う範囲が広い(ボケが小さい)
  • 全体にピントが合う

1段絞ると光量は半分

F値には法則がある。1段絞るごとに、光量が半分になる。

F1.4 → F2:光量が半分 F2 → F2.8:さらに半分 F2.8 → F4:さらに半分

つまり、F1.4からF4まで絞ると、光量は8分の1になる。その分、シャッタースピードを遅くするか、ISO感度を上げる必要がある。

Nokton 40mm F1.4で比較

私のメインレンズ、Voigtländer Nokton Classic 40mm F1.4で絞り値によるボケの変化を見てみよう。

F1.4(開放)

開放F1.4では、ボケが最大になる。

背景は完全に溶け、被写体だけが浮かび上がる。ただし、このレンズは開放でやや滲みが出る。それが「味」だ。

ピント面は柔らかく、ハイライトにはグローがかかる。ポートレートや、雰囲気重視のスナップに向いている。

ピントが合う範囲は極めて狭い。人物の目にピントを合わせると、耳はもうボケている。

F2

1段絞ってF2。

滲みが少し収まり、芯が出てくる。それでもボケは十分に大きい。開放の雰囲気を残しつつ、少しシャープさが欲しいときに使う。

私が最も多用するF値だ。開放の味と実用性のバランスが良い。

F2.8

F2.8まで絞ると、描写が一気に安定する。

滲みはほぼ消え、シャープネスが向上。それでもボケは十分にある。背景の人物が誰か分からない程度にはボケる。

テーブルフォトや、料理写真にちょうど良い。被写体全体にピントを合わせつつ、背景をぼかせる。

F4

F4は「万能」のF値だ。

シャープネスは最高レベルに達する。ボケはまだ残っているが、控えめになる。背景の形状が分かる程度。

ストリートスナップでは、F4を基準にすることが多い。被写界深度に余裕があり、多少のピントずれも許容される。

F5.6〜F8

F5.6以降は、パンフォーカスの世界だ。

背景までほぼピントが合う。ボケを使わず、画面全体で勝負する撮り方。風景写真や、建築写真に向いている。

私はストリートスナップでF8を使うこともある。2メートル先にピントを固定すれば、1.5メートルから無限遠までピントが合う。いわゆる「ゾーンフォーカス」だ。

C Sonnar 50mm F1.5との比較

Carl Zeiss C Sonnar 50mm F1.5は、開放の「狂気」を楽しむレンズだ。

開放F1.5の世界

C Sonnarの開放は、Noktonとは別次元だ。

ピント面すら滲む。ハイライトは光を放ち、背景はグルグルと渦を巻く。現代のレンズでは絶対に出ない描写だ。

これを「欠陥」と見るか「表現」と見るか。私は後者だ。

絞ると一変する

F2.8まで絞ると、C Sonnarは「普通のシャープなレンズ」になる。

開放の狂気が嘘のように、端正な描写に変わる。同じレンズとは思えない。

これが古典的なゾナー設計の特徴だ。開放では収差が残り、絞ると急激に改善する。

絞りの選び方

シーン別の目安

ポートレート:F1.4〜F2 背景を完全にぼかし、人物を浮かび上がらせる。目にピントを合わせることが重要。

テーブルフォト:F2.8〜F4 料理全体にピントを合わせつつ、背景をぼかす。被写界深度のコントロールがしやすい。

ストリートスナップ:F4〜F8 ピントに余裕を持たせる。動く被写体にも対応しやすい。

風景・建築:F8〜F11 画面全体にピントを合わせる。回折の影響が出始めるF11以降は避ける。

私の使い分け

普段のスナップでは、F2〜F4を行き来する。

開放の滲みを楽しみたいときはF1.4。確実に撮りたいときはF4。その中間がF2。

絞りリングを回しながら、描写の変化を楽しむ。これがマニュアルレンズの醍醐味だ。

絞りリングを回す楽しさ

現代のカメラは、絞りを電子ダイヤルで操作することが多い。

だが、オールドレンズやMFレンズには、物理的な絞りリングがある。金属のクリック感を感じながら、1段ずつ絞りを変えていく。

この「触覚」が、私は好きだ。

F1.4からF2へ。F2からF2.8へ。カチッ、カチッと刻まれる感触。設定を変えている実感がある。

数値を見なくても、手の感覚で絞り値が分かるようになる。ファインダーを覗いたまま、絞りを調整できる。

不便だ。だが、その不便さの中に、写真を撮る楽しさがある。

まとめ

絞りは、ボケ量を変えるだけの設定ではない。

開放では滲みとグロー、絞ればシャープネスとコントラスト。同じレンズが、絞り値によって全く違う表情を見せる。

Nokton 40mmは、開放の柔らかさとF4以降のシャープさ、両方を持っている。一本で二つの顔を楽しめる。

C Sonnar 50mmは、開放の「狂気」とF2.8以降の「端正」の落差が激しい。この振れ幅が魅力だ。

絞りリングを回しながら、自分の表現を探す。それが、マニュアルレンズで撮る楽しさだと思う。

便利じゃない理由には、だいたい意味がある。絞りを自分で選ぶ不便さには、表現の自由という意味がある。

今回紹介したレンズ

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松本 幹也

不便さを愛し、収差を「絵筆」として使う哲学者。コシナレンズとLeicaを愛するSIerインフラエンジニア。

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